ベスパ

オレが最初にベスパに乗ったのは小学6年の時、初めて行った台湾の高雄でだった。

 おじいちゃんの弟の家に泊まりに行って大叔父さんがロブスターをご馳走すると、市場に買いに行くためベスパに二人乗りして連れて行ってくれたのが始まりだ。オレはあの時白のベスパに乗って足が短すぎて、足を置く所に届かずブラブラしていたのを覚えている。40年も前の事だ。

オレが次にベスパと接したのは大学卒業後台北で生活していた時、バイト先で知り合った友達がベスパに乗っていて、奴と遊びに行く時に常に2人乗りしていた時だった。

 オレはいつからかベスパに乗って日本の道を走りたい願望を持つようになった。

 15年前知り合いになったクマイ商会は店舗は小さいがほとんど全てのバイクを販売していて、日本の二輪免許を取ってホンダの90ccのスクーターを買ってからの付き合いだ。

 オレは台湾で生活してた時、台湾の二輪免許を取得した。その頃台湾では日本の車の免許があれば、バイク持ち込みで試験場の実技試験が受けれた。オレは叔父さんにベスパを借り従兄弟と練習したのを覚えている。結局台湾の二輪免許は日本に帰る少し前に取得したので、取得から台湾滞在が3ヶ月以上なくその後ブラックリストに載ってずーっと台湾に行かなかったからパーになった。(以前は外国で免許を取得した場合、取得してからその国に通算3ヶ月以上の滞在があれば日本の免許が申請できた)それから10年以上月日が経ち、子供達を幼稚園に送る時にバイクに二人乗りができれば便利だと教習所に通い二輪免許を取得した。

 クマイのオヤジにはいつかベスパに乗りたいと話していたのだが、10年前にオヤジがオレに急にベスパを買えと言い出した。その頃オレは通勤に家から横浜線の成瀬駅の駐輪場までスクーターで通っていたのだが、90ccのスクーターから125ccさらに150ccとクマイでスクーターを買い換えていた。

 ベスパはピアージオ社のスクーターで、映画のローマの休日で有名になったやつだ。最近は環境問題がうるさいのでベスパも排気ガスが少ない4サイクルエンジンのスクーターを出しているが、昔から2サイクルの煙モコモコでポンポン音をたてながら走るうるさいスクーターがベスパだ。

 オレはベスパを買うなら2サイクルの1番大きいPX200を考えていた。ただ何色にするか悩んでいた。オヤジに何色があるか聞くと調べて教えてくれたが、オレが迷ってるのがわかるといきなり「お前赤買えよ、オレ赤売った事ないから赤にしろ、よし決まった」と来た。

 オレは特別欲しい色もなかったのでオヤジの言いなりになったのだが、納車の時初めて見てびっくりした。赤とは言えないオレンジをくすませたようなサビのような色だった。

 今のスクーターはギアがない。だがオレのベスパはギア付きだ。しかも普通バイクの場合ギアは左足で動かせる位置に付いていて、左手でクラッチを握り左足でギアを変えるのが一般的だ。しかしベスパは左足は使わないで左手でクラッチを握りながらグリップを動かして左手だけでギアを変える仕組みになっている。

 クマイのオヤジはベスパに乗れれば全てのバイクに乗れると言っていたくらいクセがある。オレは新車のベスパを家に乗って帰る時オヤジに一つだけ忠告を受けていた。「エンジンをかけてギアがニュートラルでベスパを押して歩く時は必ずクラッチを握っておけよ!」オレは意味を理解してサビ色のベスパで家に向かった。

帰る途中コンビニで一休みしたのだが、新しいエンジンだからエンジンが止まりやすいから切らないでいた。休み終わり両手でベスパのハンドルを握り横に立ってスタンドを上げようと前に押すとベスパが急に動き出した。

 必死で押さえたが押さえきれず新車を倒してしまった。オレはオヤジに忠告されたようにクラッチを握ってなかったので、ベスパを押した時ギアが入って動きだしてしまった。倒れたベスパを起こしながらオヤジの忠告に納得したのであった。

 幸いステップのサビ色の塗料が少し削れただけですんだ。その後ずーっとサビ色のベスパに乗っていたが、ある仕事帰りの小雨降る夜、事故を回避しょうとうっかり前輪をロックさせて転倒しまい、カミさんにもう通勤で乗るなと言われシブシブ通勤で使うのをやめてしまった。

 オレは何度かこけているが、そのほとんどが暗くなってからだ。暗いと対向車に見落とされやすいし、道路の状態もよく見えない。オレも若くないしカミさんに従う事にした。

 サビ色ベスパは事故を誘発させた相手の保険でクマイに修理してもらい乗っていたが、タイヤも3本とも減ってしまい(ベスパはスペアタイヤを後輪横のカバーの中に積んでいて、万が一タイヤがパンクした場合タイヤ交換が出来る)バッテリーも弱くなっていた時にクマイのオヤジに声をかけられた。「ベスパが欲しいやつがいるけど、お前売らないか?今なら定価の半値で話つけるぞ」。

調度話のあった時ベスパの輸入代理店のキャンペーンで5万円のキャッシュバックもあり、新しいモデルは前ブレーキもディスクになっていたから買え換える事にした。色も無難なシルバーにした。

うちのガレージにはシルバーのベスパがしっかり置いてある。年に数えるほどしか乗らないのだが、なぜか手放す気になれない不思議な魅力がベスパにはある。

 先日台北でいつもベスパに二人乗りしていたバイトの友達が、日本に家族で遊びに来たの時家に寄ってくれた。オレは彼が帰る時ガレージに連れて行きベスパを見せて二人で笑ったのであった。

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